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2010年6月15日火曜日

日本人開発技術者が海外で生き残る為に

 日本人が海外で技術開発業務を継続して行おうとする時、どうしても乗り越えなければならない壁があると思う。
『現地人ではなく、他の国の人種でもなく、あの日本人(達)にしか頼めない』と言わせるだけの、強い分野を持つことである。

 海外案件、特に、大規模なプロジェクトは、いずれ全てEPC(Engineering Procurement Contract:技術提案型契約)が主流になると思う。

 EPC、それは、自然災害・戦争/大規模テロ・急激な経済的な大変動以外の、全ての損失を請負者側が被る責任を負わされることを意味し、プロジェクトのプロフェッショナルとしての顔が求められている。入札時に施主側が示すものは、完成品の満たすべきスペックのみであり、完成図面はない。詳細な要件定義ですら、こちらからいちいち確認をしなければならないこともしばしばである。

 そのような契約に立ち向かっていく為には、ただただ、己の技術力と知識を磨き続け、強い専門分野を開拓して行く事だけがその支えとなってくる。

 といっても、殆どの大規模開発案件は、様々な分野の共同作業であり、勿論そこには物理的な限界もある。そこで、自分の弱点を補強してくれる協力者の存在が不可欠であり、様々なチャンネルを持つことが、また強みとなって返って来る事がしばしばである。
 しかし、その協力者がもし、プロフェッショナルと呼ぶに相応しくなく、その分野の範囲内での契約条項をバック・トゥ・バックで担えなければ、その弱点は補ったことにはならず、その責によって起こった瑕疵は、全て自分に跳ね返ってくることになる。

 入札前に、極力契約内容を吟味した上でないと、落札した後では何の言い訳も通じないのが海外物件では常識である。かといって、躊躇しっぱなしでは、何も案件を入手することが出来ず、ジリ貧となることは明らかである。

 従って又、基本に還って、己の技術・知識を磨き続けること、それだけが生き残り続ける秘訣であると思っている。

 EPCにおいては、通常、契約時点で知り得るギリギリの所まで、技術的な危機回避能力が発揮されなければならない。
 要求耐震性能の見極め、津波対策、地山崩落防止策、風荷重や熱的性状による材料の変状をも考慮に入れ、周辺環境対策はもとより、その地域の法令に従った設計を考慮に入れた額を適切に見積もり、更に、施主の特別要求事項があれば、それも含めた上で入札額を決定しなければ、落札後にどのような設計面・要求面での見直しを強いられるか分からない。様々な検討事項について、可能な限り対応策を予測しておくこと、それが入札時における心構えとなる。

 日本の技術屋は、『自分は技術屋だから、契約の細かい条項についてはよく分からないが、施主の要求通りのものを作るのが契約だから仕方がない』といったスタンスの人も多いように思う。しかし、施主が入札前に提示する契約書は、未だ契約書としての効力があるわけでもなく、たたき台(=ドラフト)の状態に過ぎないということを覚えておくべきである。
 施主としても、契約で相手を不利な状況に追い込むことが第一目標であるわけはなく、自分が不利になる状況を回避したいだけなのである。
 従って、ある一定の合理性を持って、契約の内容について話し合うこと~~~それも腹を割った話し合いを行うこと~~~が、大事なことであり、その上で双方が合意し得る内容に到達するというプロセスを貫くことが、良好な関係を築き合う為には不可欠だと思う。

 その為には、施主側が提示したドラフト条項をよく読み、どこが施主の本音の部分なのか、どの条項がこちらにとって回避しておかなければならないのか(通常、無限責任については誰もウンとは言わない)、又、どの程度のレベルならば責任が持てるのかなどを吟味した上で、こちらの立場をよく説明できるよう、ポイントを整理して明確にしておかなければならない。
 諸条件が合意に達することが出来るよう、根気強く話し合いを行う姿勢を崩さないことが大事だと思う。

 『タフ・ネゴシエーター』と思われている人ほど、理路整然とこちらの立場を説明している部分に対しては、意外と耳を傾けてくれるものだと思う。そうしないと、逆にこちらも折れることが出来ないという雰囲気が、話し合いの場には自ずと漂ってくるからである。

 ただ、一旦交わしてしまった契約に対しては、内容を改めることは難しい。
そのような時はどうするか。今度は、『何が契約に書かれていないか』を、考えることである。契約前は、書かれている契約内容について吟味し、契約後は書かれていないことについて熟考するわけである。
 契約前には想定外の事象は、契約変更で対処するしかないので、その時にこそ、不利な局面を挽回する唯一のチャンスと考えなければならない。但し、これはめったに起こらないことだからこそ、想定外なのであって、常にチャンスはあるなどとは考えないほうが無難である。何れにせよ、事前に契約内容について、深く吟味することが最善策であることには変わりがない。


 『技術・知識を磨き続けること』、『契約をよく吟味すること』、そして、『素直に自分の立場を理解してもらえるまで話し合う姿勢を貫くこと』、これが最終的に生き残り続ける秘訣だと思う。

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